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大阪地方裁判所 昭和46年(ワ)2196号 判決

原告

山下定男

被告

住友火災海上保険株式会社

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の申立

一  原告の求めた判決

「原被告間の別紙第一記載の自動車保険契約に基づき、被告が原告に対し、原告の受けた別紙第二記載の事故による損害を填補するため、右保険金の範囲内で保険金を支払う義務あることにつき、請求の原因が存在することを確認する。」旨の中間判決。

二  被告の求めた判決

主文第一、二項同旨。

第二原告の請求原因

一  原告は昭和四五年一二月二七日訴外日産サニー販売株式会社から別紙第一記載(保険の目的参照)の小型四輪乗用車一台を購入し、その際被告の代理人である右訴外会社を通じ、被告との間で、翌二八日を保険期間の始期とする別紙第一記載の保険契約を締結し、同日すなわち、同年一二月二七日右訴外会社を通じ、被告に対して、その保険料五五、八四七円を支払つた。

二  原告の経営する訴外豊中興業株式会社の従業員である訴外北島義章は、昭和四五年一二月二八日別紙第二記載のとおり本件自動車により死亡事故を起し、その結果、原告は右自動車の保有者として、その被害者の遺族らとの間で、同人らに対し、一、三〇〇万円の損害賠償を支払う者の示談契約を締結し、目下これを分割して弁済中である。

三  原告は被告に対し、本件事故後直ちにこの事故を報告して保険金の支払を要請したが、被告は本件事故当時保険料の入金がなかつたとして、保険金の支払を拒否している。

四  そこで、原告は被告に対し、右保険契約に基づいて保険金の支払を請求すべきところ、その具体的金額については、さらに詳細な調査、立証を要するので、とりあえず、その前堤となる被告の本件事故に対する損害填補責任に関する請求原因の存在することについて中間判決を求める。

第三被告の答弁

一  請求原因第一項の事実は自動車購入の日および保険料支払の日を除いて認める。自動車購入の日は知らない。保険料支払日の日がその主張の日であることは否認する。原告が訴外会社の従業員牛島広志に対して、本件保険契約に基づく保険料の支払のためにその主張の金額の小切手を交付したのは、本件事故発生の翌日である昭和四五年一二月二九日である。

二  同第二項のうち、その主張の事故発生の事実は認めるが、その余の事実は知らない。

三  同第三項の事実は認める。

四  自動車保険普通保険約款第三章一般条項第一条第二項によれば、保険期間開始後も、保険者は保険料領収前に生じた損害をてん補する責に任じない旨定められているところ、原告が保険料を支払つたのは前記のとおり本件事故の翌日であるから、被告は本件事故の損害をてん補すべき義務を負わないものである。したがつて、原告の本訴請求はその余の判断をまつまでもなく失当であるから、請求棄却の終結判決を求める。

第四原告の再答弁

被告主張の約款にその主張の規定のあることは認める。

第五証拠関係〔略〕

理由

一  請求原因第一項の事実は、自動車購入の日および保険料支払の日を除いて当事者間に争いがない。

二  原告は、右保険料は本件事故の前日である昭和四五年一二月二七日支払われた旨主張し、被告はこれを争うので按ずるに、〔証拠略〕中には、一見原告の右主張にそう記載および供述が見受けられるが、これらは、以下認定の事情に照らして直ちに信用することができない。かえつて、前記争いのない事実に、〔証拠略〕を総合すれば、訴外会社の社員牛島広志は、昭和四五年一二月二〇日ころ原告から同社の販売する小型乗用車二台の購入申込を受け、同月二七日これに関する売買契約を締結するとともに、被告を代理して、右乗用車について自動車保険に加入することをすすめ、その一台である本件自動車について、別紙第一記載のとおり自動車保険契約を締結したが、その保険料は自動車の引渡と同時に現金で支払を受けることとし、当日はこれを受領しなかつたこと、ところで、右自動車はいずれも翌二八日原告に納入されたが、当日は原告が不在のため右牛島は原告から保険料の支払が受けられず、翌二九日原告の経営する会社の事務所を訪れたところ、前日夜本件事故が発生したことを聞かされ、保険金を受領するには事故より前に保険料を受領したことにしておかねばならないことに気付き、保険料の預り証としては、昭和四五年一二月二七日付のもの二通(〇〇五二七七番および〇〇五二七八番)を作成したが、原告の方で、二通の小切手中一通は同月二七日としながら、他の一通は同月二九日としてこれを牛島に交付したため、同人は既に作成した預り証のうち〇〇五二七七番の一通(甲第二号証)はそのまま原告に交付し、〇〇五二八番の一通(乙第八号証)はそのまま留保したうえ、次の〇〇五二九番の用紙を用いて、同月二九日付の預り証一通(乙第五号証)を作成してこれをさきの〇〇五二七七番の一通とともに原告に交付したこと、以上の事実が認められるのであつて、これによれば、本件保険料は、本件事故後の同月二九日に支払われたことが明らかである。

三  ところで、本件自動車保険契約の内容をなす自動車保険普通保険約款の第三章一般条項第一条第二項に被告の答弁四主張の趣旨の規定のあることは当事者間に争いがないから、被告は本件保険契約に基づき、原告に対し、本件事故による損害をてん補する義務を負わないものというべきである。そうであれば、原告の本訴請求は、損害額等その余の点について判断するまでもなく失当として排斥を免れない。

そこで、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担については同法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 千種秀夫)

別紙

第一 自動車保険契約

(1) 保険の目的 ダツトサンサニー

登録番号 大阪五五そ三四四五

車台番号 B一一〇―一六九九二四

(2) 保険期間 昭和四五年一二月二八日から昭和四六年一二月二八日午后四時まで。

(3) 担保種目 保険金額 保険料

車輌 五五〇、〇〇〇円 二九、六八三円

対人賠償 一〇、〇〇〇、〇〇〇円 一七、七三七円

対物賠償 五〇〇、〇〇〇円 八、四二七円

合計 五五、八四七円

(4) 対人損害賠償運転手年令特約 二一才未満不担保

(以上)

第二 事故および損害

一 事故

(1) 加害者 原告の経営する訴外豊中興業株式会社の従業員訴外北島義章

(2) 加害自動車 別紙第一記載の自動車(右北島運転中のもの)

(3) 日時 昭和四五年一二月二八日午后九時四〇分ころ

(4) 場所 豊中市北桜塚二丁目四番地の一先道路上

(5) 被害者 訴外三重野弘(同所を歩行中の者)

(6) 結果 頭蓋底骨折により死亡

二 原告の損害

原告は右自動車の保有者として、右被害者の相続人である三重野洋子、忠博、正徳の三名との間で昭和四六年三月一一日、原告は同人らに対し、被害者の逸失利益、慰藉料等を含め左記のとおり合計一、三〇〇万円の支払義務あることを認めた示談契約が成立し、内五〇〇万円は強制賠償保険の保険金をもつて、その支払に当て、残余の八〇〇万円について分割弁済の義務を負担したもの。

(1) 亡弘の逸失利益 七、六五〇、〇〇〇円

昭和四三年金企業平均年令別給与額 月額 八五、〇〇〇円

控除すべき生活費 月額 一五、七〇〇円

就労可能年数 一二年(六三才まで)

ホフマン式係数(年五分)九・二一五

但し万単位の五万円を超える部分を切り捨て。

(2) 葬儀費用 三〇〇、〇〇〇円

(3) 墓碑建立費用 五〇、〇〇〇円

(4) 慰藉料(遺族全員に対し) 五、〇〇〇、〇〇〇円

以上合計 一三、〇〇〇、〇〇〇円

(以上)

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